高知地方裁判所 昭和24年(行)99号 判決
原告 里見良直
被告 高知県農地委員会
被告補助参加人 安並政義
一、主 文
被告が別紙目録記載の農地につき訴外浦の内村農地委員会がした被告補助参加人のための賃借権設定の裁定に対し原告の提起した訴願を昭和二十四年五月三十日付で棄却した裁決はこれを取消す。
訴訟費用中参加に因つて生じた部分は被告補助参加人の負担としその余は全部被告の負担とする。
二、請求の趣旨
主文第一項と同旨。
三、事 実
原告訴訟代理人は、請求原因として次のように述べた。
訴外浦の内村農地委員会は農地調整法附則第三條に基き別紙目録記載の農地について被告補助参加人の申請により同人と原告間の賃貸借契約締結に関する協議につき承認を與え、又昭和二十三年十月三日右参加人のため賃借権設定の裁定をした。そこで原告がこれに対し訴願を提起したところ被告は昭和二十四年五月三十日付でこれを棄却する裁決をした。ところで原告は本件農地を昭和十九年十二月三十一日訴外安並常吉に賃貸したのであるが同人は自らこれを耕作せずに原告に無断で被告補助参加人に轉貸したものである。そして元來原告の賃貸は原告が應召により昭和二十年一月二日入隊するため復員までの約束の一時賃貸であつた。そこで原告は昭和二十年十月十五日復員して直ちに右常吉及び被告補助参加人に返地の交渉をし、同月十八日両名と合意の上賃貸借契約を解除し、同年の麦刈取りと同時に現実に土地の引渡を受けそれ以來現在まで四年間これを自作しているものである。以上のような事情があるので、先ず被告補助参加人は本件農地につき正当な轉借人でなく從つて農地調整法附則第三條にいわゆる賃借人とはいえないから同條所定の申請をする資格がない。仮りに同條にいわゆる賃借人であるとしても本件農地の賃貸借は前記のとおり一時的なもので、しかも知事の許可がそれにつき法律上必要とされない時期に合意の上解除されているので適法且つ正当な合意解除があつたものである。なお一時賃貸の農地を賃貸人である原告に無断で轉借し、しかも僅か一年間しか耕作していない右補助参加人が合意解除の後すでに四年間も原告の耕作している本件農地につき前記のような協議の承認及び裁定を申請するのは信義に反する行爲である。そこで、浦の内村農地委員会が右補助参加人のため與えた承認及び裁定がそもそも違法である。從つてこれに対する原告の訴願を被告が棄却した裁決は当然違法の処分である原告はその取消を求めるため本訴に及んだものであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、次のように述べた。
訴外浦の内村農地委員会が被告補助参加人の申請により別紙目録記載の農地につき原告主張のような承認及び裁定をしたこと、これに対する原告の訴願を被告が原告主張の日付で棄却する裁決をしたこと、原告が訴外安並常吉に本件農地を賃貸し被告補助参加人がこれを轉借したことを認めるが、その余の原告主張の事実は爭う。原告は昭和十九年十二月その應召に際し本件農地を賃貸したものではあるがこの賃貸借は原告主張のように一時的なものではなく期間の定めの全くないものである。そして被告補助参加人は最初原告に無断でこの農地を轉借したのであるが原告の留守中その母の承諾をえ、又原告の復員後は原告自身の承諾もえて耕作しているもので正当な轉借人である。右補助参加人は昭和二十一年一月二十三日原告から返地の要求を受けこれを承諾したのであるが、しかしそれには原告が本件農地に相当する替地を提供し又本件農地の昭和二十一年末の麦は補助参加人に耕作させるとの條件があつた。ところが原告はその後この約束を守らないので結局賃貸借契約解除の合意は失効したものである。のみならず補助参加人が原告に土地の引渡をしたのは昭和二十一年六月のことであるが右解除の合意には知事の許可がないし、又補助参加人と原告双方の家族人員、耕作能力、生活程度等諸般の事情を考え合わせるとこの合意解除が適法且つ正当なものであるとはとうていいうことができない。その他浦の内村農地委員会の承認及び裁定に原告主張のような違法は何もない。そこで被告の訴願棄却の裁決は当然であつて本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)
四、理 由
訴外浦の内村委員会が別紙目録記載の農地について被告補助参加人の申請により同人と原告間の賃貸借契約締結に関する協議につき承認を與え、又昭和二十三年十月三日右参加人のため賃借権設定の裁定をしたこと、そしてこれに対する原告の訴願を被告が昭和二十四年五月三十日付で棄却する裁決をしたことは当事者間に爭いがない。
そして本件農地を原告がその應召に際し昭和十九年十二月訴外安並常吉に賃貸し、同人から被告補助参加人がこれを轉借したことも当事者間に爭いがない。ところで成立に爭いのない乙第一号証及び証人安並常吉、安並政義の各証言を総合すると被告補助参加人は原告の應召後右轉借につき原告の母及び妻の承諾をえ、又原告の復員後は昭和二十年十一月初め頃原告と直接本件農地の小作料の減額につき交渉しその同意をえていることが認められる。これに反する証人里見猪佐重の証言及び原告本人訊問の結果は採用し難く他にこの認定を覆えすに足りる証拠はない。そこで被告補助参加人はその轉借につき原告の承諾をえたものと考えるべきである。そして農地調整法附則第三條にいわゆる賃借人とはかような正当な轉借人を含むと解するのが相当である。從つて被告補助参加人は同法條所定の前記承認及び裁定の申請をする資格において欠けたところはないといわねばならない。しかし証人里見猪佐重、市川廣茂及び安並政義(一部)の各証言及び原告本人訊問の結果を総合すると原告の本件農地の賃貸は訴外安並常吉から懇望されて原告が復員するまでという約束でした一時的なものであつたこと、そして原告は昭和二十年十月十五日復員しその後右訴外人及び轉借人である被告補助参加人に対し返地を交渉した結果翌二十一年一月下旬頃原告と右両名間に右の賃貸借契約を解除することにつき合意が成立したこと、この合意には替地の提供等の條件は何もなかつたこと、そして原告は昭和二十一年五月現実に土地の引渡しを受けたものであることが認められ、この認定に反する証人安並常吉、森田棟喜、光森竹喜、安並政義(一部)の各証言は採用し難く、他にこの認定を覆えすに足りる証拠はない。そして原告が本件農地の引渡を受けた昭和二十一年五月頃までは農地の賃貸借契約の合意解除につき知事の許可を必要とする旨の法規はない。從つて原告が知事の許可を受けていないことは弁論の全趣旨に徴しその明らかに爭わないところであるが、それがためその合意解除が不適法なものとなる筋合はなく、他にそれを当然不適法なものとして取り扱うべき根拠になるような法令の規定もない。そこで本件農地の賃貸借契約の解除は、あえて原告と被告補助参加人双方の事情をいちいち比較してみるまでもなく元來の賃貸借の性質及び合意解除の事実等から考え当然にいわゆる適法且つ正当な解除であつたといわねばならない。しからばその余の点につき判断するまでもなく訴外浦の内村農地委員会が被告補助参加人のため與えた前記の承認及び裁定はこの点においてすでに違法である。從つて被告が原告の訴願を棄却した裁決も当然違法であつて取消を免れないものである。
そこで原告の被告に対する本訴請求は正当であるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十四條第九十五條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)
(目録省略)